ライン

     



第2章 カオダイ教



 
 サイゴン2日目の朝、カオダイ教で有名なタイニンへ行きました。カオダイ教は、今世紀初頭に発祥した新興宗教で、その教義は、大乗仏教をベースにしながらも、道教、儒教の要素を取り入れ、さらには唯一神の信仰を掲げているという、ユニークな宗教です。 ガイドブックに必ず出てくる巨大寺院は、このタイニンにあります。


 タイニン行きのバスは、空港の外縁にあるタイニン・バス・ステーションから出発します。 長距離バスのターミナルは、東南アジアの、どこにでもあるバス・ターミナルとまったく同じ。 ただ、ベトナムのバスは、さすがに、くたびれています。座席は狭くて汚く、乗り心地が、容易に想像できるという代物です。 ただ、ひとつ、評価すべき点があるとすれば、アジアの乗り物に共通の、情け容赦なく吹き付けてくるエアコンの冷気とは無縁だということ。 窓から入ってくる自然の風が、とても心地よい。


 サイゴンからタイニンまで96キロの距離を、バスは、何時間もかけて走ります。 高速道路もなく、道路事情の悪いベトナムでは、96キロという距離は、かなりのもの。 内陸部を行く車窓からの景色は単調で、うたた寝をしながら、窓枠に頭をぶつけて目を覚ますということを繰り返していました。


 2時間ほど走ると、バスを乗り換えました。乗り換えたバスは、さらに汚れがひどく、床には、何十匹もの、ひよこの入った籠が散乱していて、 足の踏み場もありません。しかし、この手の雰囲気はけっして嫌いではありません。


 タイニンのバス・ターミナルからカオダイ教寺院まで、約4キロの道のりは、バイク・タクシーで行きました。 一人では道がわからないということもあり、値段の交渉は、完全に相手のペース。 往復と待ち時間を合わせて10ドルという価格は、ベトナムでは、相当の価値を持つのでしょうけど、足下を見た運転手たちは、僕が立ち去るふりをしても、 一歩も譲ることはありません。


 タイニンへは、サイゴンで車をチャーターするか、ツアーで行くのが、いちばん賢い方法なのでしょう。


 しかし、苦労しながらたどり着いたカオダイ寺院は、確かに興味深い。 正午からの礼拝の儀式に間に合い、巨大な寺院の、中二階の回廊から、異教的な雰囲気の中で繰り広げられる奇妙な光景を、目の当たりに見ることができました。 数百人にものぼる白装束の老若男女が、不思議な旋律の歌を唱えながら本尊に参拝する姿は衝撃的で、フランス統治時代から、時の権力の弾圧の対象とされてきた理由が、 よくわかるような気がします。



            
                            カオダイ教寺院

 
 
 最盛期には、南ベトナムの人口の1/8が帰依していたという時期もあり、 正統的な仏教徒、正統的なキリスト教徒には理解しにくい教義と様式を持つこの宗教が、不安定な政治状況の中で、 権力にとって、どれだけ脅威となり得たのか、容易に想像がつくのです。


 タイニンは、カンボジア国境にほど近く、東南アジアの内陸部の街に共通した埃っぽさがあります。 タイニン近郊には、ベトナム戦争時に解放戦線が設けた、有名なクチの地下トンネルもあり、いまではもう想像もできないのですが、 20数年前には、このあたりで激戦が展開されていたのでしょう。


             第1章  第2章  第3章  第4章  第5章  第6章  第7章
トップ アイコン
トップ

ライン