クアラ・ルンプールのトムヤムクンも、コタバルのクイッティオウも、タイから国境を越えてマレーシアに渡った食べ物ですが、マレーシアの西海岸、ポート・ディクソンでは、バンコクから国境を越えてやって来た少女に会いました。
ポート・ディクソンは、クアラ・ルンプールとマラッカのちょうど中間のあたり、KLからバスで3〜4時間、マラッカからだと2時間ほどのところにあります。日本で言えば、逗子の葉山、という感じでしょうか。
外国人観光客が行くほどのところではないのですが、KL市民にとっては、手近な海水浴場。マレーシアの青春小説、アディバ・アミンの「スロジャの花はまだ池に」で、物語のヒロインが、ボーイ・フレンドとポート・ディクソンにドライブに行くシーンがあり、それに触発されて立ち寄ってみました。
KLからの道のりは、熱帯雨林を切り開いた高速道路ばかりで面白くないのですが、市内を走るローカル・バスに乗り換えれば、白い砂浜と松林の風景が目の前に広がります。沖に点在する小さな島々と海からの風が、夏休みに遊んだ葉山の記憶を甦らせてくれました。
キノ(左)とアミラーネ(右)。キノはマレー人、アミラーネはタイ人。
その少女とは、バスターミナル近くの小さなレストランで会いました。スバゲティ・ミートソースもメニューに載っている、田舎の村の最新スポットというところ。
アミラーネという名のタイ人少女は、奥のテーブルでノートを広げ宿題をやっていました。ときどき僕のほうに視線を向けながら、僕が見ると慌てて目をそらします。話しかけたいけど話しかけられない、というような雰囲気でした。
やがて、もう一人の少女、キノが出てくると、ふたりでなにやらひそひそ話。活発そうなキノが、「どこから来たの」と近づいてきました。マレー人のキノはまだ11才ですが、そこそこ英語を話します。キノの通訳でアミラーネとも話しました。
アミラーネは15才。バンコクから一人でやって来ました。タイに家族を残し、なぜ一人でやって来たのか。キノ一家とはどういう関係なのか。いろいろ訊ねたのですが、キノの英語力では、詳しいことはわかりません。
食後の紅茶を飲みながら、しばらくお喋りを楽しみ、記念撮影をして店を出たのですが、いまでも、国境を越え、ひとりでポート・ディクソンにやって来たタイ人少女の事情に興味がわいて来ます。島国の日本で考えるほど、国境を越えることの意味は大きくないのかもしれませんが、それでも、バンコクからポート・ディクソンまではかなりの距離。言葉も文化も違う異国の地に、いたいけな少女が一人で国境を越えた事情に、いろいろな想像力が働くのです。
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